Power Mac 7300/180で3つのOSを使い分ける(金子)

2012-04-04

こんにちは、金子です。今回はPower Mac 7300/180の話を書きます。
詳しいスペックはAppleのサポートページを見て頂くとして、画像検索すると出てくるこの筐体、今見るとつまらないでしょう?当時でもつまらないと思っていましたよ。この頃(1990年代後半)は本当にAppleの低迷期で、この機種が発売した1997年といえば、前年にNeXT Software社を吸収合併し、この事を伝えた当時の朝日新聞一面には「ごたごたアップル ネクストと合併」と書かれていました。この「ごたごた」の会社が十数年後に新聞を殺しに来るとは露知らず、なかなか牧歌的な見出しです。この頃同社の上層部はアメリオとジョブズの2人体制。懸案であった次世代OS “Rhapsody”(現在のMac OS X)はNEXTSTEPをベースにすると決まったものの、”Classic” Mac OS向けのアプリケーションはエミュレーターでしか動作せず、Rhapsodyにネイティブ対応するにはObjective-Cで全て書き直すしかない、という絶望的な発表もあり、これは後日、Carbon APIによって旧来のアプリケーションに対する救済措置が取られるのですが、それならいっそWindowsでのみ開発しよう、と世の中の「まっとうな」皆様は思っていた頃と言えば、当時の雰囲気が分かって頂けるでしょうか?

そんな「ごたごた」を反映するようにPower Mac 7300/180では複数のOSをインストールして遊んでいました。すなわち、Mac OS 8、MkLinux、BeOSです。

Mac OS 8の説明はいいとして、残りの2つは当時を知らない若い世代や若くはないけど当時を知らない皆さんにとっては初耳かと思われるので解説します。
まずMkLinuxですが、これは皆さん一度は耳にした事のある「リナックスOS」の1バージョンです。直接使った事はなくても、実は皆さんの使っている携帯電話、Androidなんかは「リナックスOS」の上に作られた環境です。
さてこの接頭辞の”Mk”とはMicro Kernelの事で、実はこれ、Machというマイクロカーネルの上にLinuxのユーザーランドがあるのですから、モノリシックLinuxカーネルを使わないOSをLinuxと呼んで良いのか?などと専門的な疑問はあるのですがそれは置いておく事にします。
このMachマイクロカーネルは、現在のMac OS Xの心臓部であるXNUのベースにもなっており、PowerPCへMachカーネルを移植する実験という意味合いもあったのでしょうね。

そして3つ目のBeOSですが、これはLinuxよりも余程Appleと馴染というか因縁のあるOSです。
前回ちょっと触れた、1990年代初頭にAppleのハードウェア担当副社長であったジャン=ルイ・ガセーが興したBe社によって作られたOSで、当初はBeBoxという専用ハードウェア上で動作していたのですが、Power Macと同じPowerPCをCPUに持つ関係で、後にMacに移植されました。更には当時の(今も尚?)Mac OSには無い先進性の数々があり、これが次世代Mac OSになるのではないか、と目されていたのです。
その先進性の一例を挙げますと、まずリアルタイムに応答する反応の良さ、データベースのようなファイルシステム、オリジナルに作ったOSでありながらUNIXアプリケーションと(ほぼ)互換、安定性、などでした。
1990年代の中頃、アメリオ体制であったAppleは自社での次世代OSの開発を断念、他社からOSを買い入れると判断を下し、その「買い入れ」候補であったのがSunのSolaris, MicrosoftのWindows NT, BeのBeOS, NeXTのNEXTSTEP、の4つでした。最終的にBeOSとNEXTSTEPの2つに候補は絞られ、下馬評ではBeOSで決まりではないか、とされていました。その理由というのが、まずBe社が買収しやすい新興ベンチャー企業であること、既にPowerPC CPUで動作している事などです。対するNEXTSTEPは、これはPowerPC CPUでの動作実績がまだない事で移植するまでの期間が長く掛かりそうな点がマイナス要因とされていました(※1)。
いよいよどちらを次世代Mac OSにするのか、2つの企業の代表でプレゼンテーションをする、という展開になりましたが、これはガセーとジョブズ、どちらが勝ったのかは皆さんご存知でしょうから割愛しますけど、この辺りを日本特有の企業小説にしたらさぞや、という展開ですが事実は小説より奇なり、という事で当事者アメリオによる回顧録「アップル薄氷の500日」という本に当時の様子は詳しく書かれていますので、興味のある方は読んでください。

ようやくBeOSの中身に関する話です。
コンピューター(ソフトウェア含む)が単なる道具になって久しいのですが、昔はコンピューターのユーザー=開発者である、という認識がありまして、まずソフトウェアが圧倒的に足りない当時の状況があり、無いものは自分で作ろう、というフロンティアスピリットを持った者のみがコンピューターなる、何も出来ないくせにバカ高い箱を「何でも出来る夢の箱」として入手していた、という当時の状況があります。当時、依然開発中のBeOSにはろくなアプリケーションもありませんでしたが、開発者が技術的興味をそそられるだけの先進性、そして興味を持った者が開発しやすいように、開発環境は全て無料でBeOSに同梱されていた事が特筆されるでしょう。対するMac OSは、開発環境は全て有料でした。そしてその使い心地たるや、「(Mac OS用アプリケーションを)使うは天国、作るは地獄」と揶揄されていたのですから、推して知るべしです。

僕はMac OSでは、ついぞユーザーのままで、開発者のような事はFutureBASIC IIを買ったぐらいで、まね事しかしていませんでした。しかし、BeOSの開発環境、CodeWarrior for BeOS改めBeIDEというのは、これをうまく言葉で言い表す事は難しいのですが自分にとって「しっくり来る」環境であり、これは後年、Mac OS Xの開発環境、Xcodeに対する違和感をもって僕をBeOSに回帰しようと思うのですが既に動作するハードウェアもありませんし、BeOSの後継と目される”Haiku OS”プロジェクトは単なる個人の趣味の範囲でしかありません。「知的な趣味としてのホビーパソコン」というジャンルは今は絶滅してしまったのですが、その時代の最後がBeOSであったような気がします。あの頃、BeOS向けの開発でC++プログラミング言語を必死に勉強したお陰で自分の今の職があると断言できますし、翻ってこの2012年、電車に乗ると自分の半径2m以内の人が全員、魂を抜かれたような表情で口を半開きにしながらiPhoneをこすっている姿を見ると、これが「コンピューターの民主化」であるな、との認識と共に、コンピューターを使う事が知的な趣味であった時代と現代と、果たしてどちらが良かったのでしょうか?

(※1)「Appleが許せばMacにNEXTSTEPを二ヶ月で移植する」などと、買収前に来日したジョブズはMacJapan誌のインタビューで語っていましたけど、Mac OS X v10.0のリリース時期を考えると、これは彼の例の「大口」によるものでしょう。

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